差別が当たり前の時代に指揮者を夢見た女性「レディ・マエストロ」
フランスのブザンソン国際若手指揮者コンクールで日本人女性、沖澤のどかさんが優勝したというニュースが世界を駆け巡ることから約90年遡った1926年ニューヨークは、女性は指揮者になれないのが当たり前の時代だった。
実在した女性指揮者アントニア・ブリコの半生を描く感動の同作。9月20日から東京・渋谷のBunkamura ル・シネマほか全国で公開される。
音楽の力は差別から主人公を救えるのか
女性は決して指揮者になれなかった時代に、自身の夢を叶えるため全てを捧げる主人公アントニア。新しい道をつくることを恐れない強い生き方に、私たちの今を重ねる。

舞台は1926年、ニューヨーク。
オランダからの移民アントニア(クリスタン・デ・ブラーン)、夢は指揮者。教会から鳴り響く美しい音色は彼女を一瞬で音楽の虜にしたのだった。
指揮者の基礎を学ぶべく、ナイトクラブでピアノを弾き稼いだ学費で音楽学校に入学するものの、女性であることが引き起こす不運が在学を許さない。誰もが羨む恋人の引き留めを振り切り、自身の原点でもあるアムステルダム、そしてベルリンに旅立った彼女はついに師と出会う。
「女は底辺にいたら欲しいものを得れる」と今では信じられないような差別が横行する時代に、彼女が信じた音楽の力で人々の心を変えていけるのだろうか。
監督はマリア・ペーテルスというオランダ出身の女性監督。フェルメール、レンブラントを生んだ国だけあって、とにかく光の使い方がうまい!名曲にが誘い、光が道しるべとなって物語は進んでいくアートのような作品。

海外版ポスター
【登場する主な楽曲】
マーラー「交響曲第4番」
ドヴォルザーク「ロマンス」
バッハ「オルガン・コーラル」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第32番」
ビゼー「オペラ《カルメン》~ハバネラ」
ストラヴィンスキー「火の鳥」
ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」
音楽のために全てを捨てる。今を生きている私たちからすると、もしかして共感は難しいかもしれない、しかし男性社会に風穴を開けようとまっすぐに奮闘を続けるアントニアの姿に心揺さぶられる2時間。
作品タイトル:『レディ・マエストロ』
出演:クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド
監督・脚本:マリア・ベーテルス
2018年/オランダ映画/英語・オランダ語/カラー/シネスコ/5.1ch/139分/DCP/G
英題:The Conductor/日本語字幕:古田由紀子
配給:アルバトロス・フィルム
コピーライト:(C)Shooting Star Filmcompany – 2018
女性指揮者の道をつくった アントニア・ブリコ

Antonia Brico
オランダのロッテルダムで生を受けたアントニア・ブリコは1908年、里親とともにカリフォルニアに渡る。
12歳のときには既にピアノがとても上手で、入学したカリフォルニア大学ではサンフランシスコオペラのアシスタントとして働き、多くの教師のもとピアノを学び指揮者の基礎を作っていく。25歳で海を渡りベルリン国立音楽アカデミーに入学し、アメリカ人最初の指揮者としてマスタークラスを卒業。
卒業後はハンブルグ・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者カール・マックに師事をし実力をつけ、ついに1930年にはついにベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でプロの指揮者としてデビューすることに。
育ったアメリカにも凱旋をし、1938年ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した最初の女性となるのです。
1988年デンバーで亡くなるまで世界中で指揮を続けました。
もちろん、そこには日本も含まれます。
彼女を題材とした映画はJill Godmilow監督の「Antonia:A Portrait of a Woman(原題)」(1974年)もあり、「レディ・マエストロ」の監督マリア・ペーテルスは、もう一度フォーカスする必要があると感じたのはアントニア・ブリコの功績が忘れ去られるのが怖かったからだと語っています。
アントニアがつくった道は、ブザンソン指揮者コンクールで女性で初めて優勝した松尾葉子さん、日本を代表する女性指揮者 三ツ橋敬子さん、先日18年ぶりにブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した沖澤のどかさんへと受け継がれています。
<三ツ橋敬子さんが映画に贈ったコメント>
はじめて指揮棒を手にした、あの日の胸の高鳴り。いつしか自分自身の過去と未来を重ね合わせ、ラストは涙がこぼれた。アントニアが切り開いた道に感謝。私も次世代にバトンを渡さなければ。
沖澤のどかさん優勝 ブザンソン国際指揮者コンクール
フランスのブザンソン国際若手指揮者コンクールは若手指揮者の登竜門。
2019年9月21日、青森県出身の沖澤のどかさん(32)が課題曲のシュトラウスの交響詩「死と変容」を指揮し優勝した。
同コンクールは1959年に小澤征爾さんが優勝。沖澤さんは10人目の日本人優勝者となる。
沖澤さんは東京藝術大学指揮科を首席で卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。同大学の音楽研究科指揮専攻修士課程修了後、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリン修士課程オーケストラ指揮専攻に在学、現在もベルリンを拠点に活躍している。2018年には東京国際音楽コンクールの指揮部門で女性として初めて優勝し、今大会でも注目のひとりだった。
高校2年生のときにシドニーに語学留学をし、その時に感じた多様性が音楽の道を進むことを後押しする。最初はオーボエでの進学を考えたが、留学費用を出してもらった親に楽器を買ってもらうことを言い出せず、日本最高峰の東京藝術大学指揮科に数回のレッスンで受かってしまうのだから、人生って面白いですよね。
その後、授業についていけず休学を経て首席で卒業するあたりに、彼女がいかに努力を重ねて来たかを感じさせます。
「指揮はうまくいかないところもあったので、優勝者として名前が呼ばれた瞬間、興奮状態で実感がわきませんでした。大きなコンクールで優勝できたのは、本当にうれしい。十年以上支えてくれた家族、結果が出ない時も励ましてくれた先生や友人のおかげ。これからも自分のペースで、音楽活動を続けたい」-沖澤のどか-
ブザンソン国際指揮者コンクール優勝後のインタヴュー
産経新聞
https://www.sankei.com/entertainments/news/190922/ent1909220003-n1.html
ブザンソン国際指揮者コンクール 日本人優勝者一覧
1959年(第9回)小澤征爾
1982年(第32回)松尾葉子
1989年(第39回)佐渡裕
1990年(第40回)沼尻竜典
1993年(第43回)曽我大介
1995年(第44回)阪哲朗
2001年(第47回)下野竜也
2009年(第51回)山田和樹
2011年(第52回)垣内悠希
2019年(第59回)沖澤のどか