芸術家ジュリアン・シュナーベルが描いた「永遠の門 ゴッホの見た未来」

世界中で愛され、色彩画家として知られているフィンセント・ファン・ゴッホ。その素顔は人付き合いが極度に下手で、挫折を繰り返し、さらには恋人の自殺など不幸の連鎖、最後は生粋のナイーブな性格から精神を病んでいく。生前には絵が1枚しか売れず(諸説あり)孤独の画家として知られている彼がどうやって西洋美術史で最も有名な芸術家として、近代美術に影響を与えるまでになったのか。伝記や回顧展を通して多くの人たちはゴッホの生き方を知り、共感をしてきた。
同じく画家であり、映画監督であるジュリアン・ジュナーベルは本作でゴッホ自身の目を通し、永遠の存在となる芸術を伝えようと試みる。そして、それはある種の奇跡として定着している。
全てがクライマックスと言って良いほど美しい
現在、日本では2年ぶりのゴッホ展が上野森美術館で開催されており、ゴッホが影響を受けた「ハーグ派」と「印象派」に注目した展覧会で、すでに行かれた方も多いと思いのではないでしょうか。
37歳という短い生涯で、画家としての活動はたった10年だけでしたが、激しい人生と鮮やかな色彩のコンストラストに強い印象を残し、世界を魅了し続けます。

映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」は、後にポスト印象派を代表する画家ゴーギャンとの出会い、1887年11月から物語が始まります。
当時のパリ画壇に辟易としていたゴッホはゴーギャンの「南に行け」というアドバイスを受け、南フランスのアルルに居を構えます。パリとは異なり見渡す限りの限りの畑や眩い太陽、生命を感じさせる力強い木々、自然に美しさを見出したゴッホは、五感を駆使して後の名作を生み出していくのです。

もともとのアルコール依存症に加え、描くことだけに使命を感じ人生をおざなりにするゴッホは、瑣末なことから住民とトラブルを起こし精神疾患と診断されてしまう、そして入院。彼の才能を信じ、生活を支えた弟のテオに自分だけにしか見えない幻聴を打ち明け、不安を隠そうとしない。
最後のときが近づいているのを、後世の私は知っていてもなお、生きている間に成功を掴み取って欲しいと強く願ってしまうのは、ゴッホの痛いまでの純粋さを知っているから。
最も輝かしい年月になるはずだった、ゴーギャンとの共同生活も破綻が近づき、すべてから捨てられる恐怖を感じ錯乱したゴッホは、芸術史に残る耳の切り落とし事故を起こす。医師の紹介でサン・レミの精神病院に入院した彼は、神父に「未来の人々のために、神は私を画家にした」と語り、その目からはすでに不安と自我は拭い去られ、強い意志だけが宿っていた。

この映画はドキュメンタリーとは一線を画していて、いくつかの新しい解釈が加えられている。史実よりもゴッホが見たであろう世界をスクリーンに蘇らせたいという制作チームのコンセプトが現れていて、見終わった今でもゴッホが自分の中に宿っているような不思議な感覚に巻き込まれる。1887年を境にそれまでの暗い写実的な作風から、黄色を中心とした強烈な原色を使うようになった、独創性の昇華と狂気を体験できたことに感謝せずにいられない。
ジュリアン・シュナーベルならではの圧倒的な映像美
本作の監督はジュリアン・シュナーベル。80年代は新表現主義の芸術家として活動した後、ブルックリンのストリートから世界を揺るがしたアーティスト、ジャン・ミシェル・バスキアの伝記映画「バスキア」(96)で映画監督としてデビュー。続くキューバの詩人レイナルド・アレナスの生涯を描いた「夜になるまえに」(00)はベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。脳梗塞となった元ELLE編集長の実話「潜水服は蝶の夢を見る」(07)でカンヌ国際映画祭とゴールデングローブ賞の監督賞を獲得。
「永遠の門 ゴッホの見た未来」は、友人でもあるフランスの巨匠脚本家ジャン=クロード・カリエールをパリのオルセー美術館に誘い、ゴッホ作品の前で構想を練ったという。「芸術作品の前に立っていると、その作品の声が聞こえてくる。さらに30作もの絵画を観ていけば、さまざまな感覚や印象が混ざり、蓄積していく。私は、この効果を映画に取り入れたかった。ゴッホに起こった出来事をひとつひとつ重ねていけば、そこには人生が形成され、観客が彼の人生を追体験できると考えたんだ」
高い評価を得ている映像美はここでも健在。撮影監督ブノワ・ドゥロームのカメラワークが圧巻で、ゴッホの目として、意思として、ゴッホのなかに入り、飛び越し、気づくと観客も作品の一部になっている。これは、ぜひ映画館で見て欲しい大きな理由。TVやPCの前ではドラマチックな世界観が半減してしまいそう。

主演ウィレム・デフォーにもスタンディングオベーション。昨年は日本でラミ・マレックにフレディ・マーキュリーの魂が宿り大きな話題となりましたが、ゴッホ&ウィレム・デフォーも負けてない。
デジタルエンタテーメント誌はThe Wrapは5つ星を付け、「ジュリアン・シュナーベルの繊細で型破りな作家性の中で、ウィレム・デフォーの突出した演技が炸裂する!」と評価している。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で男優賞を受賞したのは100%納得!
2018年製作/111分/G/イギリス・フランス・アメリカ合作
原題:At Eternity’s Gate
配給:ギャガ、松竹
関東圏の劇場情報
映画館/公開日(全て2019年)
東京
新宿ピカデリー 11月8日
MOVIX亀有 11月8日
MOVIX昭島 11月8日
TOHOシネマズ錦糸町 11月8日
TOHOシネマズ日本橋 11月8日
TOHOシネマズ上野 11月8日
TOHOシネマズ六本木ヒルズ 11月8日
イオンシネマ板橋 11月8日
T・ジョイPRINCE品川 11月8日
109シネマズ二子玉川 11月8日
109シネマズグランベリーパーク 11月13日 (2019/11/13 OPEN)
角川シネマ有楽町 11月8日
YEBISU GARDEN CINEMA 11月8日
アップリンク吉祥寺 11月8日
神奈川
MOVIX橋本 11月8日
TOHOシネマズ ららぽーと横浜 11月8日
イオンシネマ新百合ヶ丘 11月8日
横浜ブルク13 11月8日
109シネマズ湘南 11月8日
川崎チネチッタ 11月8日
千葉 MOVIX柏の葉 11月8日
TOHOシネマズ市川コルトン 11月8日
TOHOシネマズららぽーと船橋 11月8日
京成ローザ⑩ 11月8日
シネマイクスピアリ 11月8日
埼玉
MOVIXさいたま 11月8日
MOVIX川口 11月8日
イオンシネマ春日部 11月8日
109シネマズ菖蒲 11月8日
茨城、栃木、群馬
MOVIXつくば 11月8日
MOVIX宇都宮 11月8日
MOVIX伊勢崎 11月8日
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